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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔




 ややあって、司が杏璃から視線を逸らす。


「……泣かないでよ、鬱陶しい」


 本気で鬱陶しいと思っているような音。


 その司の態度で荒ぶっていた心がまた凪いでいく。


 ああ……この世には話が通じない人間がいるのだと、杏璃は初めて知る。


 それもそうか。人並みに罪悪感を感じる人間ならば、杏璃に酷い仕打ちを最初からしてないか。


 司は自分と、そして自分が認めるもの以外は見下している。そういう人間なのだ。


 そう推測したとき、ふと何かとリンクするような感覚を覚える。


 その感覚を探り、思い当たったとき、零れ落ちていた涙がピタリとやむ。


「あ……」


 小さく零す声に、司が怪訝に見てくる。だが杏璃の意識は司にはなく、自身の犯した過ちに囚われていた。


 黒目がちの瞳を揺らし、呆然と佇む杏璃は、司からしたらショックのあまりおかしくなったと見えただろう。


「杏璃? ねぇ、何なの急に」


 怪訝そうでいて、少し気遣わしげな司の顔はやはり杏璃の意識外だ。


(春馬が怒るのも当然だよ……)


 杏璃は脱力し、膝を抱えてしゃがみ込む。


「ちょ……、どうしたっていうの?」


 その声はもはや届いてはいなかった。








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