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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔
杏璃ははたとなり、ショートパンツのポケットをまさぐる。しかし目当ての物はなく、今度は頭を抱える。
こうしてはいられない。一刻も早く春馬に連絡を取らなければ。
無言で立ち上がり、踵を返す杏璃を慌てた様子で司が追いかける。
「ちょっと! 無視しないでくれる!?」
かろうじて司の声が届き、杏璃は眉間にシワを寄せて歩きながら振り返る。
「あ、もういいから」
「は? 何が!」
「だから、話が通じない相手と話すのは無駄ってこと。あと出掛けるのはパス。どうしてもって言うなら、交通費、食費はあなた持ちでよろしく。じゃ、そういうことで」
単調に言うだけ言って、杏璃は小石の敷き詰まる足場の悪い川辺を速足で歩く。
悲しみは消えてはいない。怒りも消えたわけではない。
だが彼と同じ愚かな人間でいたくないという思いが、杏璃を突き動かしていた。
みんながいる場所ではなく荷物があるコテージへと戻った杏璃は、自分のバッグからスマホを取り出す。
しかしメール画面を開いたところで、頭を振った。
形ばかりの謝罪は無意味だ。そんなもので真摯な言葉が伝わるだろうか――いいや、伝わらないだろう。
ならばどうすればいいか考え、杏璃は一旦由奈たちのいるところへと行き、先に休んでいる旨を伝え、再びコテージに戻ると早々に横になった。
帰ったらやることは山積みだ。今すべきことはそれに備え、眠ることなのだ。
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