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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
そこは一人暮らしにしては広い寝室だった。
司らしい整然とした――異様なまでに整然としすぎているその部屋。
ベッドではなぜか慌てて布団を被り、もぞもぞとしている司。しかしそれ以上に杏璃の目を引いたのは、壁一面に据えらえている本棚。
映画や音楽の幅広い知識を披露してもらった覚えはある。しかし司が読書家だったとは知らなかった。
微笑んだまま何気なく。本当に何気なく視線を走らせ、そして飛び込んできた背表紙の文字。
『義理の姉~初体験~』、『淫らな不倫愛』、『白衣を脱がせた夜』、『卑猥な肢体』、『エロエロメイドはバナナがお好き~ご主人様食べさせて~』……。
本という本に刻まれる、非日常な単語。
表情も思考も、時間さえも刹那停止し、再び動き出すとギ、ギ、ギ……と壊れたブリキの玩具のように首を司へと向け。
満面の笑みで「熱はどう?」と、小首を傾げる杏璃は、つまり現実逃避を試みたのであったのだが。
「だから入るなって言ったのに……。なんで来たんだよ。ほんっと余計なことしやがって」
見たことも、聞いたこともない邪悪さを纏う司を前に、試みは失敗した。
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