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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔
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帰宅した杏璃はさっとシャワーを浴び、クローゼットの奥に隠してあった官能小説を引っ張り出した。
すでに二度、三度と読んだそれら。だがもう一度読む必要があると、杏璃は痛感していた。
――いや、真に痛感したのは、一晩かけて読み終えたあとだった。
一睡もしていないというのに妙な高揚感が包み、眠気を何ら感じず、身支度を整えて家を出た。
杏璃の自宅から徒歩でも分単位の位置にある春馬の自宅。
グレーのタイル貼りの一軒家の前に立ち、血走った目で杏璃はインターフォンを押した。
仁王立ちで応答を待っていると、ややあって玄関の扉が開く。出てきたのは春馬本人だった。
寝起きなのか乱れた髪にTシャツとハーフパンツという出で立ちの彼。不機嫌そうに腕を組んでいる。
「春馬、あのっ!」
杏璃の胸の高さにある門扉に手をかけて身を乗り出す。
勢いで来てしまったはいいが、何て言えばいいのだろう。謝罪するのは違う気がする。そんなことじゃ足りない。
杏璃が言葉を迷いあぐねていると、春馬が門扉を開けようとした。
「その顔は……解ったんだな?」
「うん」
力強く頷く杏璃を春馬は「入れば」と言って招き入れてくれた。
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