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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔




 一拍の時を置いて、杏璃は思いの丈を春馬にぶつける。


「――私も春馬の言う通り、司と同類だった。あんな奴の好きなものだから、どうせくだらないって馬鹿にしてた。でも違った。そうじゃなかった」


 官能小説で杏璃が初めて読んだ『エッチなあの娘の取扱説明書』を例に挙げると、そこはかとなく興奮を煽る描写が連なるだけだと思った。


 かわるがわる男を貪り、精液を搾り取り、快楽に溺れる穂奈美を嫌悪して、理解しようともしなかった。


 筆者がストーリーに込めた想いも――。


「よくよく読んだらさ、穂奈美ってああいう生活をするしかなかったんだよね。自分のお母さんも穂奈美みたいに男をとっかえひっかえして、それを幼い時から見てきて嫌悪してたはずなのに……」


 穂奈美の母は性に奔放な女性だった。毎夜のように違う男を連れ込んでは、娘がいる同じ屋根の下で男に跨って乱れた。


 その母の喘ぎ声や淫蕩な姿を目にすることもあった穂奈美。自分は母のようにはなりたくないと、強く思ってきたはずなのだが。


「お母さんが突然死んじゃって、身寄りもなくて。お金に困った穂奈美は、自分の身体を使って生きていくしかなかった――お母さんと同じように」


 そう、穂奈美の母もまた、子供を育てるために身を削っていたのだ。






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