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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉



 唖然……いや、呆然とする杏璃に、司は尚も罵倒を続けたのである。


「“大体さ。人の聖域に勝手に土足で踏み込んどいて、なにその上から目線!? お前はさ、僕の言うことをはいはい聞いとけばいいんだよ”」


 一言一句違わず、迫真の演技で司の言葉や表情、怒気までも再現する杏璃。


 その時は混乱に任せ、司はあまりの高熱で脳がやられて、己を見失っているのだと、杏璃はまたも現実逃避に走った。


 だってそうだろう。司が自分にこんな暴言を吐くはずなどない。二人は未来までも約束し、愛し愛されているのだから、と。


「横になって休んで、熱が下がったらまた元の司に戻ってくれるって思ったから、買ってきたものを置いて帰るねって伝えたの。だけど……」


 杏璃は歯噛みして、瞳を潤ませた。


「“バカだバカだとは思ってたけど、ここまでとはねぇ。この状況でまだ、僕が熱あるって信じちゃってんの? え、ていうか、僕が杏璃を本気で好きだと思ってるわけ?”」


 一度剥がれた聖人君子の仮面は、本人に取り繕うつもりがないと、こうまでボロボロになるものなのか。


「“今日は藤堂志保の新作が出るから、休んだだけ。はぁ……。せっかく楽しみにしてた日だったのに、杏璃のせいで台無しだよ”。……藤堂志保って誰よ!? 知らないし!」


 杏璃が急に怒りを爆発させて叩いたテーブルの上では、コップが軽く浮き、すかさず春馬は倒れないように支えた。





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