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妄想シンドローム
第5章 恋のイベント発生!?
(何よ! 母親のはよくて、私のは食べられないってこと!? 私は病気持ちかっ!!)
想起すると腹立たしくて仕方がない。甲斐甲斐しく料理のスキルを磨いた自分は何だったのか。
卵や小麦粉が投入されたボウルの中を、ゴムベラで回す腕に自然と力が入る。
グッチャグッチャと音を立て、周りに飛び散っているのにも気づかず、杏璃は自身の記憶にご立腹。
(キスしたあと、すぐバイバイしたのって、もしかして早く口すすぎたいから!?)
下校時に夕陽が景色を染める、最高にロマンチックなシチュエーションで、初めて交わした口付け。
司は照れた様子でそそくさと帰っていった。
当時はファーストキスに浮かれ、それは司も同じで、互いに視線を交わすのも恥ずかしいから、彼は足早に去ったのだと思っていたのに。
(だったらキスすんなよー! 私の大事なファーストキス返せっ!!)
高速でかき回される、チョコレート色に染まった材料。
ボウルから避難するように外へと飛び散り、辺りは失恋の痛手殺人事件状態だ。
腕に抱えるボウルが軽くなった気がして、ようやくその惨状に杏璃は目を留める。
「あ……あぁぁぁ!!」
やっちまったーと額を掌で叩いたところで遅かった。
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