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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉



 絶句だった。


 醜悪な表情で、過去のすべてを否定する宣告をした司は、杏璃を紛れもなく汚らしいと認識した目で見ていたのだ。


 それを前にして、言葉を継げるはずないではないか。


 訊いてもいないことを杏璃が絶句しているのをいいことに、さらにペラペラと語りだしたのだが、絶望に打ちひしがれていた杏璃は呆然と受け止めるしかなかった。




 杏璃と春馬の間に、静寂が落ちる。


 吐き出した。吐き出しきった。


 一人では耐えられそうにない痛苦をぶちまけた杏璃は、疲弊しきっていた。


 不意にカランと音が鳴る。杏璃が注文して手付かずだったアイスティーに浮かぶ氷が溶け、磨かれたグラスに打った音だった。


 その音が沈黙を破る皮切りだとばかりに、春馬が口を開いた。


「……ふむ。総合すると、お前の男を見る目がなかった、ということだな」


 どこをどう聞けばそう断じるに至ったのか。


 杏璃が周囲を気にせずに声を潜めもせずに話していたせいで、居合わせた客たちも彼女に降りかかった災難を把握しているようで。


 杏璃に向ける同情の眼差しから春馬の発言で、彼への非難の眼差しに変わる。


 しかし杏璃の反応と言えば。


「うん……」


 項垂れていた首を、頷いたのかますます落としたのか判然としない動作で、ガクンと垂らした。






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