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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉




 客たちの眼差しが「いいのか、それで!?」と言いたげだ。


 これまで杏璃が語った話で、自分に都合のいいように塗り替えられていなければ、どう考えたって杏璃に非はない。なのに春馬の言い分では、杏璃が悪いようではないか。


 相談するにせよ、愚痴を吐くにせよ、人選ミスなのは明らかなのだが。


「……春馬に聞いてもらって、少しスッキリしたよ」


 杏璃が無理矢理浮かべる悲痛な笑み。彼女は人選ミスなどとは思っていないのだ。


「それでどうするんだ」


「どうもこうも……別れるしかないでしょ」


「はっ。別れて終わり? 随分と“いい子ちゃん”だな」


 この皮肉には流石にムッとして、口を尖らせる。


「だって仕方ないじゃない」


 ――それが“私”なのだから、との言葉は敢えて口にはしなかった。


 再び落ちてきた小さな沈黙。破るのはやはり春馬だ。


「まぁ、そうだな。どうせそいつも長年いい子ちゃんを演じてきたんだろう。杏璃が周りにそいつの悪行を言いふらしたところで、信じてもらえない。下手打ちゃお前が悪者だ」


「それ! そこなの!」


 悔しいことに、友人の誰よりも長く時間を共にした杏璃でさえ、司の本性を見抜けなかったのだ。


 杏璃が騒ぎ立てたところで、司に「フラれた腹いせに嘘を触れ回っている」とでも言われれば、杏璃の立場が悪くなるだけ。







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