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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い

顔を洗い、髪を軽く整えて、薄くメイクをしてから着替え、リビングに行く。
「遅い!」
途端に飛んでくる非難。今日会う約束はしていなかったのに、この扱いは理不尽だ。
だが理不尽を訴えたところでやりこめられるのは目に見えていて、杏璃は疑問をそっと投げる。
「あの……今日って何の用で来たの?」
「お前に用事はない」
「えぇー……。用もないのに叩き起こされて、この扱い……」
がくりと項垂れる。
「他に用事があって通りかかったら、あの男を見掛けて、注意しに寄った」
「わざわざ……?」
「ああ」
「そっか……。うん、ありがと」
春馬は何だかんだと言いつつ優しいところがある。杏璃の司への復讐だって付き合う必要なんてどこにもないのに、手伝ってくれている。口調こそ辛辣なものがあるが、根は優しいのだ。
そういう部分に触れるとき、杏璃は妙なくすぐったさを覚えずにいられない。
「あ、で。あいつ何て? 何か言ってた?」
照れている自分を見せるのが恥ずかしくて、話題を変える。
「いや、特に」
「じゃあ何しに来たんだろ。やっぱ出掛けること? 毎日しつこいのよ、あいつ」
今日もそうだが、ほぼ毎日メールや電話が鳴りっぱなしだ。本当にストーカーなんじゃと疑うほどだ。
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