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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い




 通話が切れてしまったのかと耳からスマホを離す。だがまだ通話状態が続いている。


 不意に声が返ってきて、嫌々ながら耳に持っていった。


『……一緒にどこか行く約束。あれ果たしてよ』


「だから……」


『これも取引きの内容に含まれてる。杏璃は僕の彼女役を務める義務があるでしょ? 夏休みだからってその義務は消えないから。破ればどうなるか解るよね?』


 杏璃は唇を噛む。卑怯な脅しで屈服させるやり方が気に食わない。気に食わないが……避けていても、司はけして折れない。


 拒絶と了承でせめぎ合う杏璃の目前に、春馬からずいっとスマホが差し出される。


 見るとメールの画面が開かれており、『行け』という文字が書かれていた。


 困惑する杏璃に、春馬が小声で「いいから」と告げてくる。


 春馬はどういうつもりだろうと考えたが、彼のことだから何か考え合っての進言だろう。そうであって欲しいと願いを込めつつ、杏璃は春馬に従って司に言う。


「……解った」


『行くってこと?』


「うん。ただし一回きりね。それ以上は私も譲れない。そっちが約束するならいいよ」


『杏璃が僕に命令するのは気に入らないけど……まぁいいよ。約束する』


 それから日時と場所を決め、通話を切った。







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