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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い



 この前とは司が杏璃宅へ二度目に訪れたときのことだ。なぜ訪れたかは言うまでもなく、彼女と約束を取り付けるためだった。


 司は杏璃と二人で出掛けるのにこだわっているわけではない。ただ他人が自分を袖にするのが許せないだけ。


 いや……それも少し意味合いが違うか。冷淡に扱われるだけならまだ許せる。なぜなら憎悪という愛情と表裏の関係にある感情がそこに伴われる証拠だから。


 しかし杏璃の態度といったら、司を完全に意識外に置いていた。そう、あのキャンプの夜から。


 憎しみの焔を全身から迸らせて、杏璃は司への想いを吐露した。それは彼女が司に執着している証拠だ。


 例え司が無関心な相手でも自分に固執していると思うのは、極上の優越感を司にもたらす。


 司は幼少の頃から比類なき容姿で、思うままにならないことなどなかった。息をするのと同様に、優越感を覚えるのは自然の摂理であり、また破られてはならない理〈コトワリ〉なのだ。


 杏璃も交際当時から司の容姿と口八丁で意のままに操ってきた。こと彼女は純粋で、ちょっと甘い顔でお願いすれば簡単に頷くくらい操りやすかった。


 なのにあの日からだ。彼女の態度が急変したのは。







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