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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
「もういいから」と言った杏璃には、強がりからだとか司の気を引くためとかの打算はないように窺えた。本心で「もういい」と言ったのだ。
司は腹が立った。この世に自分を無視する人間がいるなんて。
だから日が明けてからや移動中、杏璃の悔しがる顔見たさにわざと仲睦まじいカップルを演じた。だが彼女は終始心ここにあらずで、悔しさどころか感情を揺さぶられる素振りさえ見せなかったのだ。
その後電話をしてもメールをしても、一向に返事はなく。
いよいよもって司の忍耐は弾け飛び、聞いていた住所を頼りに彼女の家まで行った。
自宅前で杏璃を呼び出そうとした直後、彼女が出てきた。杏璃が凍り付いていると同時に、司は狼狽えていた。
よくよく考えると、杏璃の家に来てしまった自分を彼女はどう思うのだろうと。
まさか自分に気があると勘違いしやしないだろうか。図に乗って、今度は杏璃が司を見下してきやしないだろうか。
だが彼女から出た言葉に、やはり杏璃は馬鹿だ……と少し憐れみさえ覚えた。
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