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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
司は静かな長嘆をして気持ちを落ち着かせると、顎を上げて春馬を見下ろし、余裕たっぷりの笑みを浮かべる。頭の中では彼を侮辱し、悔しがるだろう言葉を転がした。
だがそれらを吐き出す寸前、道路向かいの家のドアが開き、中年の女性が現れた。
「あらぁ? 誰かと思ったら……まぁまぁまぁ! すっかりいい男になっちゃって!」
女性は春馬を見るや近付いてきて、彼の肩を叩く。
「ああ、どうも」
「杏璃ちゃんに用事?」
「いや、郵便局に行った帰りです」
「そうなのぉ! ん? こっちの彼は? あらぁ! またイケメンねぇ!」
女性は司の肩も叩こうとしたものだから、素早く、だがさりげなくかわす。
「ありがとうございます」
小さく首を傾げてにこやかに返しながらも、内心では気安く触るな、邪魔だ早くどこかへ行け、と悪態を忘れない。
宙ぶらりんになったゴングが今か今かと待ちわびているのに、女性は立ち去る様子はなく、司と春馬に興味津々だ。
「もしかしてあなた……杏璃ちゃんの彼氏?」
近所の娘の恋愛事情は、このくらいの年齢の女性にはもってこいの噂話だ。ネタでも仕入れようという気なのだろう。
司はどうにかして女性を追い払おうと算段をつけ、口を開きかけた時だった。
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