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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い




「杏璃に聞けば解ると思うので、こいつ捕まえといてもらえます? ガッッッツリ抱き着いていいんで」


 春馬の眼鏡が太陽の反射とは別の煌めきを放つ。


 女性が「そうね!」と大きく頷いたのを見て、司は炎天下だというのに寒気が全身に走った。


 見ず知らずの人間に抱き着かれるなんて堪ったもんじゃない。青ざめて後ずさる司の視界に、春馬の勝ち誇る顔が入る。


 反撃したい。反撃したいのはやまやまだが……にじり寄ってくる女性から逃げるのが先決だと、司の本能が判断を下す。


「いや、ほんと僕そういうんじゃないんで!」


「あらぁ? 急に汗掻き出したわねぇ。怪しいわぁ」


「それはほら……夏ですから。……っと、こんなことしていられないんだった! 急用があるのでこれで!」


 司はそう言って、脱兎の如くその場から退散した。


 走りながらなぜ僕があんな三下のような台詞を吐いて逃げなきゃならないのかと、湧きあがる憤慨が今にも爆発しそうだった。


 憤慨は駅に到着しても収まらず、指定席のある電車を待つ間に杏璃に電話をした。





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