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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉




 元来なのか、表情の乏しい春馬が不遜に口角を上げている。人を恐怖させる邪悪な笑みだ。しかしこの時ばかりは頼もしさを覚える顔。


 杏璃は期待に胸を膨らませ、身を乗り出して食いついた。


「なにかいい案あるの!?」


「ああ。お前の根性とやる気次第だがな」


「やるよ! なんだってやる!」


「本当だな?」


「ほ、本当……っ!」


 ずいっと寄った春馬の気迫に気圧されて怯みそうになるが、どうにか堪えて声高々に宣言した。


「なら善は急げだ。行くぞ」


「行くってどこに!?」


 その問いの答えは返されることなく、杏璃と客に疑問を残したまま乙女の園を出ることになった。


 白い陽射しが眼〈マナコ〉を灼〈ヤ〉く。照り付ける太陽が冷房で冷え切った身体を一気に真夏だと思い出させた。


 この暑い中、自分はあんな男のために汗を流して駆け付けた。


 セミの大合唱は彼が心配で耳に入ってこなかった。


 彼のために選んだ服が肌に纏わりついて胸やけがする。


 それを考えると、春馬が自分に何をさせようとしているのか皆目見当もつかないが、なんだってやれると思えた。





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