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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
「い、いやぁ……どっちがってこともないんじゃないかなぁ? あはは」
杏璃から発せられる曖昧な答え。複雑に絡み合う思惑の前でも、彼女は司を彼氏と言いたくないのだ。
「だってほら。春馬くんのことも呼び捨てで呼んでるし。いくら幼なじみでも、ちょっと仲良すぎかなって」
司の悲しげな表情も完璧だ。それがかえって由奈に以前から不信感を抱かせた原因ではある。
何もかもが計算され尽したような完璧さ。言動や振る舞い。一片の狂いもなく、好青年な司。杏璃への気持ちもはばかることなく出していた。
二次元的に言えば、乙女の理想形。しかし二次元と三次元の相違を知っている由奈だからこそ疑ったのだ。
当の杏璃と春馬は首を傾げてあらぬ方向を見ている。
彼らの反応に当惑している様子の司。
一呼吸置いてから、杏璃が「あ」と小さく零す。
「春馬って名字だよ?」
「え? そう……なの?」
再び司は両側へと交互に視線を配る。
由奈も春馬というのは下の名前とばかり思いこんでいて、目を瞬かせた。
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