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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
「春馬くんの下の名前は?」
杏璃に問いかけると「えーっと……何だっけ?」と頬を掻く。
すると春馬は顔を顰め、手つかずのまま綺麗にルーと米が分かれたゾーンをかき混ぜだした。
「ちょー! 嘘! 冗談だってば!」
杏璃が春馬を慌てて止めたので、三分の一ほどは無事な状態。だが杏璃は恨めしそうに春馬をじっとりと見ていた。
「優希〈ユウキ〉だよね?」
「何で疑問形なんだ」
「ずっと春馬、春馬って呼んでたから、たまーに忘れそうになるっていうか。そういうことあるよね?」
話を振られた由奈は「あるある」と杏璃の援護をする。
「ふぅん。そっか、春馬くんは名字で呼ばれていたんだ」
司の善人そうな顔に隠し切れない性悪が滲む。彼は自尊心を湛えて、春馬に笑んだ。
春馬は眼鏡の奥の双眸を鋭く細める。忌々しいものを見る目付きで、司の笑みに応えていた。
二人が視線を交わす姿に、由奈は衝動的にバッグからスマホを取り出して、素早く彼らを撮影した。
シャッター音ののち、一斉に視線が集まる。由奈の不可解な行動が、図らずも険悪になりそうだった雰囲気を壊した。
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