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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い




 化粧室から司たちのいる場所に戻ると、二人は話すでもなくお互いそっぽを向いていた。


「遅かったね。混んでた?」


「いやぁ、そうでもなかったんだけど……」


 由奈は小さく寄越してくる杏璃の視線にいたたまれなくなる。我を失って、公衆の面前でBL愛を語ってしまったことは、顔から火が燃え盛りそうなくらい恥ずかしい。


「大なら家でしてこいよ」


「春馬! 違うから!」


「そうだよ。女の子になんてこと言うんだろうね。杏璃、彼みたいな下品な人との付き合いは考え直した方がいいんじゃないのかい?」


「“高尚な趣味”をお持ちの人には、俺みたいなのは下品に映るってわけか」


「おい。言葉に気を付けろ」


 なのにさっとスマホを構えてしまう自分が悲しくて。一度火がついてしまったBL愛がくすぶったのだ。


 いい感じに距離を詰めて睨み合う美形二人。角度を少しずらして撮ると、鼻先が触れ合いそうな絵図が撮れてしまった。


「由奈ちゃん、こんなときに……。ぶれないねぇ」


 彼らを遠巻きに眺める杏璃が、感心したような呆れたような声で言った。







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