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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
「まーね。二人とも大人なんだし、取っ組み合いにはならないだろうけど、醜い言い合いを他のお客さんに聞かせるのはしのびないね」
由奈たちから少し離れた後方を歩く男たちには届かない声で、杏璃にひそひそと話す。
彼らもまた口許が動いているため語らっているのだろうが、けしていい話題ではないのは届いてくる剣呑な雰囲気から明らかだ。
「あーあ、残念。アレの取材も兼ねて乗りたかったのに」
杏璃からひそめた声のぼやきが発せられる。
取材ということは小説のネタに使うつもりなのか。
「杏璃ちゃんって観覧車乗ったことないの?」
「小学生の低学年に両親と乗った記憶はあるよ。ただそれから乗る機会逃してきちゃってて、あんまり覚えてないんだ」
「そっかぁ」
彼女の執筆に協力を惜しまないつもりでいたが、由奈には観覧車に乗るのを躊躇う大きな問題があった。
「一緒に乗ってあげたいのはやまやまなんだけどね。私も小さい頃に乗った時に故障か何かで止まっちゃったことがあって。それ以来、観覧車だけは苦手なの」
「ほんとに? そんなことあるんだ……。いいよ、無理しなくて。ネタに使えたらいいなーくらいの気持ちだったし」
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