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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
司から息を詰める気配がする。見るも鮮やかに彼の腕に鳥肌が立った。
「ゆ、由奈ちゃん!」
司の上擦った声に構わず、杏璃に行けと目配せする。彼女は戸惑っていたものの、由奈の身体を張った行為に応えると決心したのか、顔の前で掌を合わせて小さくこうべを垂れた。
「行こう、春馬! 由奈ちゃん、司。すぐ戻ってくるから!」
「え、ちょっ……杏璃!」
司の呼び声は、脱兎のように駆けていく彼らの前に無情に散った。
由奈は心の内で杏璃にエールを送る。しっかり取材をしておいでと。
そのうち杏璃たちの姿は雑踏に紛れて見えなくなる。だが追いかけられたら面倒になるので、微かに震える司の腕を両手でしっかり握ったままでいた。
けれど彼の顔を見上げると青ざめていて、零細ではあるが罪悪感が胸を刺す。
「は、放してもらえないかな?」
司の秀でた額に汗が噴き上がってくる。これが冷や汗なら、本当に極度の潔癖症だ。
「あ、ごめーん」
だが事情を知らないふりをして、悪びれもなく両手をパッと放す。
司は由奈に触られたのに相当動揺しているのか追いかける素振りはなく、不規則な呼吸を繰り返し、やがて落ち着いた頃に眇めた瞳で由奈を見下ろしてきた。
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