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妄想シンドローム
第7章 意外な正体




 春馬を怒らせることをした覚えはないし、かといって気まずくなる出来事があったわけでもない。


 考えられるとしたら彼の体調がすこぶる悪いこと。本気で心配になり、額に手を伸ばす。


「熱はないねぇ」


 てっきり避けられるか手をはたかれるかすると思った掌は、春馬の額にしっかりと当てられている。そこから伝わるのは、高くも低くもない体温。


 杏璃は額から離した手に拳を作り、逆手の掌にポンと打つ。


「もしかして……あの日!? 憂鬱になるよね、そりゃ」


 至極真面目な表情の杏璃を春馬は半目で見る。


「ふざけてるのか。男にそんなものあるわけないだろ」


「……やっぱ変!」


 杏璃とて表情こそ真面目だったものの、男に月のものがないことは知っている。ある目的のためにわざと言ってみたのだ。


「春馬らしくない。全っ然キレがない!」


「何が」


「私が冗談言ったら、いつもの春馬ならもっとけちょんけちょんにけなすじゃない。“お前の脳は腐りきって腐敗臭がする”とか、“腐っても肥料にすらならんその脳を生ゴミとして捨ててやろうか”とか!」


 春馬の無表情と単調にけなしてくる口調を真似てみせる。すると彼の眉間にわずかにシワが寄った。






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