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妄想シンドローム
第7章 意外な正体




 怒られるだろうかと身構える反面、ここへきても春馬の反応が薄ければ、いよいよ本気で心配しなければいけない事態かもしれないと彼の動きを待つ。


「……杏璃」


「は、はい」


 ほとんど呼ばれることのない名前を呼ばれ、何だか緊張が心臓に走る。


「聞きたいんだが……あいつが大学を休んだ理由を作った作家の名前覚えてるか?」


「へ? 急にどうしたの」


「いや、やっぱいい。何でもない」


 唐突な質問に混乱する杏璃の前では、春馬が静かに息を吐く。


 よく意図を汲めないが、彼の不調の原因と杏璃が司の本性を知るきっかけとなった作家には何か関係があるのだろうか。


 もしそうならば、思い出すべきなんだろうか?


 杏璃は記憶を掘り起こす。確かその作家の名前は……。


「と、と、と……藤堂! そうだ、藤堂なんちゃらだ」


 下の名前が喉まで出かかっているのに出てこない。痰が絡みつくような気持ち悪さに、目を固く瞑って髪を掻きむしるも、あとちょっとのところで記憶に蓋がされていた。


「藤堂……志保なんて名前じゃないよな?」


「志保……そう、志保! 藤堂志保だよ! 今はっきり思い出した! はぁ、すっきり」


 栓がスポンと抜けて、詰まっていた清らかな水が吹き上げるかの如く爽快感が広がった。






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