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妄想シンドローム
第7章 意外な正体
さっぱりとした顔の杏璃に対して、春馬はますます顔色が悪くなる。尋常じゃなく蒼白な春馬は「やっぱそうか……」と呟いた。
その声が届き、だが消沈している春馬にどう接していいか解らず、杏璃がオロオロとしていると。
「なぁ。その藤堂志保にもし会えるとしたら、お前はどうしたい」
「会えるって……えぇ?」
藤堂志保の小説は春馬と買った本の中にはなく読んだことはないが、司がファンというからにはそれなりに人気がある作家なんだろう。
プロの作家に会えるのなら会ってみたい。しかし春馬にそんなツテがあるのだろうか。
「どうってそりゃあ、会ったら色々話を聞いてみたいよ。ちょうど春馬に相談したい事あって、プロの意見も知りたいなぁとは思うし」
「それだけか? 恨み言とか言ってやりたいとかは?」
「恨みか……。うーん、どうかな」
言われてみれば藤堂志保さえ新作を出さなければ、今でも杏璃は幸せな夢を見れていたかもしれない。ただそれが良いことか悪いことか、杏璃にはよく解らない。
傷付いたり打ちのめされたり涙を流したりはしなかったはず。
胸の奥でジクジクと燻っている傷は思い出すとまだ痛む。司の豹変を、これこそが夢だと思いたい自分もどこか片隅にいるのも事実だ。
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