この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
妄想シンドローム
第7章 意外な正体
「春馬の頭ん中は知らないけども。ただ、春馬が私を騙すつもりなら、もっと上手にやると思うの。著名人の名前で釣る真似しなくたって、春馬ならいつだって私を連れ出せるし」
「まーそうだね。杏璃ちゃんを騙したって、春馬くんはデメリットのが多そうだし。司くんならともかく春馬くんはないかー」
「そうそう。司なら……」
言いかけて、杏璃は唐突に険相な顔つきになる。
「杏璃ちゃん? また司くんに嫌がらせでもされたの?」
表情から察した由奈が気遣わしげに訊ねた。
「ううん。じゃなくて逆なの」
「逆?」
「怖いくらい静かなの……」
遊園地へ行く以前は疲弊するほどの着信やメールがあった。だが以降は音沙汰なしなのだ。
「良かったじゃない。もしかして寂しいとか?」
「まさか! なんていうか……この静けさが不気味」
スマホが鳴るとビクついていた日々。それはそれで困りものだった。けれどウンともスンとも鳴らなくなると、司が今頃何かを企んでいるのではと不安になるのだ。
「うーん。自宅に籠って小説読んでるだけじゃない?」
「だといいけど。……姿が見えても厄介。見えなくても厄介。はぁ……いつになったらあいつから解放されるんだろ」
杏璃が遠くを見つめる目をしたので、由奈は心底憐れんだような視線を送っていたのだった。
.