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妄想シンドローム
第7章 意外な正体
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旅行当日。
先方の事情で到着を夕方にして欲しいとのことで、昼過ぎに春馬と電車に乗ってから約三時間。電車をいくつも乗り継いで、目的地の最寄駅にたどり着く。
新幹線を使えたならもっと早く着いただろうが、アルバイトを減らしている杏璃に新幹線代をはたくのは厳しく、時間という対価を払うことにしたのだ。
駅から外に出て、杏璃は伸びをする。ただ乗っているだけなのに、身体がバキバキに凝り固まっていた。
「つっかれたー。でももっと遠いと思ってたよ。三時間なら日帰りでも来れそうなのに」
「あの人が夕方を指定してくるの解ってたから」
言葉少なく説明する春馬。その表情はとても沈んでいた。
この旅行を決めてから執筆のことで春馬と何度か会った。その様子は日に日にやつれていくようで。
杏璃の知らないところで彼に何かあったのかもしれないが、今日会ってみて断言出来る。彼はこの旅行がとてつもなく乗り気じゃなかったのだと。
道中、話す相手といったら春馬しかいないため喋りかけた。だが春馬は上の空で、杏璃の渾身のボケに対しても溜め息で返したのだ。
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