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妄想シンドローム
第7章 意外な正体
杏璃と遠出するのが嫌ならば、彼の性格上はっきりと言ってくるはず。しかし杏璃に文句を言わないところを察するに、何が彼をここまで疲弊させているのか――それは、今から会う藤堂志保が原因でしかないだろう。
「ねぇ、春馬。私一人で行ってこようか?」
「は?」
「だって春馬、藤堂志保に会いたくないんでしょ?」
今日のことを提案してきたのは春馬だが、こんなにも嫌がっている彼を伴うのは気が引ける。
かといって先方には行くと伝えてあるのに、行かないのも悪い。
つまり杏璃が一人で会ってくるのがいいように思えてきた。見知らぬ人に一人で会うのは不安はあるが。
「ここまで来ておいて? それに俺が行かないと……」
春馬は言葉を切って、深々とした長嘆を吐き出す。魂までも出そうな溜め息に、杏璃はますます彼を連れてっていいのかと迷う。
「無理しなくていいって! ここで待っててくれれば、ちゃちゃっと会ってちゃちゃっと帰ってくるし」
「行き方知らないだろ」
「だから教えてくれればいいって」
「……大丈夫だ。顔合わせるのが憂鬱なだけ」
珍しく気弱な春馬。大丈夫という言葉も無理に言い聞かせているように聞こえてならない。
「まぁ……。とにかく行くぞ」
「でも……」
「心配ない。今日さえ乗り切れば、どうとでもなる」
春馬は拳を右手に握り、自分に言い聞かせるように気合を入れていた。
そこまで彼を追い詰める藤堂志保とはいったい何者なのか。非常に気になると共に、一抹の不安が過った。
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