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妄想シンドローム
第7章 意外な正体
エレベーターから降り、『AMEMIYA』とプレートに刻まれる七〇二号室のインターフォンを春馬が押す。
てっきり藤堂が名字かと思っていたが、よくよく考えたらペンネームを使っていることに考え至る。
待っている間、心臓が期待と緊張とで早打つ。
しかし緊張は続く間もなくカギが開く気配がし、扉が開いた先で出迎えたのは――。
「はぁい! よく来たわね。あたしが藤堂志保でぇっす!」
「――え」
右目を挟むように右手でVサインを作り、軽い調子で迎えた人物に杏璃は固まった。
どういうことだ? 彼女が藤堂志保? いやしかし、記憶が確かなら彼女は――。
「ちょっと、ちょっと! ここ突っ込むとこよ? やだなぁ、杏璃ちゃん。昔はもっとノリ良かったじゃないの」
「普通に固まってるだけだろ」
「あんた話してなかったの?」
「驚かせたいから話すなって自分で言ったんだろ」
「そーだったっけ?」
長く艶やかな黒髪を掻き、とぼける彼女に恐る恐る杏璃は問う。
「あの……遼子〈リョウコ〉さん……ですよね?」
それに対し、彼女は美貌に笑みを湛えた。その笑顔に杏璃はとても覚えがあった。
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