この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
妄想シンドローム
第7章 意外な正体
杏璃は甦った記憶で乗り物酔いになりそになり、頭を小刻みに振って記憶を散らし、目前の遼子へと意識を向ける。
「そりゃ驚くよねー。優希でさえ驚いてたんだから」
「やっぱり春馬も知らなかったんだ」
春馬が遼子のペンネームを知っていたなら、もっと早く打ち明けていたはずだ。よって知らなかったことは予想していた。
そこでどういう経緯で遼子が藤堂志保だと知り得たのか訊ねた。
「この前、仕事がひと段落したからひっさびさに里帰りしたの。でも優希ったら、やれバイトだ何だってあたしと顔を合わせようとしなくてさぁ。ひどいと思わなーい?」
「あはは……。春馬って昔っから遼子さんのこと苦手だよねぇ」
毒舌と鋭い眼光で向かうところ敵なしな春馬の、唯一の天敵が遼子だ。
兄弟のいない杏璃にとって、遼子はお姉さんのような存在だ。破天荒なところはあれど、面倒見がよくて頼りになる。
だが実の弟にとってはそうではないようで。遊びに連れて行ってもらっても、春馬は心底嫌そうにしていた。
どうして遼子を煙たがるか詳しく話したがらないことからも、相当思うところがあると窺えた。
今も仏頂面がいつもに増していて、遼子を見ようともしないし口を開こうともしないので、苦手意識は健在なんだろう。
.