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妄想シンドローム
第7章 意外な正体
遼子の身の上話が終わると、春馬が話を通しておいてくれたらしく、杏璃の相談に乗ってくれると申し出てくれた。
「あ、ビール呑みながらでもいい? 昨日まで修羅場でさぁ、全然呑めてなくて」
杏璃が心より頷くと、遼子は立ち上がって冷蔵庫を開けた。
「うわ! ビール切らしてんじゃん。買っておいてって言ったのに、もー」
遼子はぶつくさと文句を言いつつ別室へと入っていき、戻ってきた彼女の手には一万円札が握られていた。
その手を春馬へと差し出す。
「おい、愚弟。ちょっとそこまで買ってらっしゃい」
「は? なんで俺が」
「あたしが買ってこいって言ったら、一も二もなく買ってこればいいのよ。解ったら行ってきな」
春馬に命令口調……。世界広しと言えど、こんな暴挙を働けるのは遼子しかいない。
春馬がどう出るかハラハラして見守っていたが、舌打ちをした彼は奪うようにお札を遼子からもぎ取り、無言で玄関へと歩いていくではないか。
「マンション出て右にまーーっすぐ行ったらコンビニあるからよろしく」
彼の背に遼子は大声で呼び掛け、直後に荒々しく扉が閉まった。
すごい。あの春馬を顎で使った。
杏璃は感動を覚えると共に、姉弟にも縦社会があるのだと知った。
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