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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
「わ、私にこれを書けと!?」
「鳥頭で現実逃避主義のお前にしては察しがいいな」
「鳥頭言うな! 無理だって! 小説なんて書いたことないんだよ!?」
「どんな小説家にだって処女作はある」
「処女! そう、処女よ! 私、処女なの! 処女が官能小説書ける!? 無理でしょ!」
どうだ、参ったかと言わんばかりに胸を張り、春馬がやらせようとしていることの退路を断つ。
だが春馬はやれやれ、浅はかだなと言わんばかりに退路を容易く切り開く。
「じゃあお前はミステリー作家が、不自然なまでに何度も殺人現場に居合わせる経験をしてると? ファンタジー小説を書いている作家が、魔法やらドラゴンやらが存在する異世界に行ってるとでも? 否だ!」
「ぐ……ぅの音も出ません……」
「だろう? 安心しろ。処女でも官能小説を書けるように、こうして資料を買い込んだんだから。言ったよな、何だってやるって」
資料……。なるほど、そのためにいかがわしい本の数々を書店で買わせたのか。瞼を腫らしていやらしい本が置かれるコーナーにいる杏璃が、客から訝しい視線を向けられる恥辱に耐えたのはこのためか。
杏璃の中で何かが弾ける音がした。
「うふ……うふふ……。……はぁ。…………やってやろうじゃないの! 見てろよ! いいえ、見てやるわ! あの男の顔が屈辱に歪む様を!!」
杏璃は立ち上がり、拳を握って虚空を見上げた。
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