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妄想シンドローム
第8章 二人きりの夜
「ゴール地点を決めるのが悪いと言ってるわけじゃないの。思い付いたシチュエーションを描きたいって気持ちも解る。でもね、それに囚われて短絡的な話になっちゃあ、書いてますよ感が出てきちゃう。ほら、洋服だって着こなせている人と服に着られている人がいるでしょ? 小説も同じ。動かされているお人形に、誰が感動する? 生きていない人物に心を動かされると思う?」
視覚での動きがない文字だけの小説でも、読んだ人たちの想像を駆り立てて映像として場面を浮かばせられなきゃならないと遼子は言う。
経験や技術が未熟だと言うのは、ただの言い訳だとも彼女は語る。
「いい、杏璃ちゃん。生み出したキャラクターは紛れもなく物語の中で生きているの。それを第一に意識して。プロットや設定にこだわりすぎちゃ駄目。変更しようが何しようがいいの。生き生きとした人が描ければ、悩んだときもきっと糸口が見つかるはず」
遼子は酔っているにも拘わらず、小説を語るその顔は真剣でプロそのものだった。
ふいに杏璃の心に罪悪感が刺す。
遼子の真摯な言葉を受けるだけの資格が自分にあるのだろうかと。プロを目指しているのではなく、復讐のためだけに書いているのに。
気軽に相談事を持ち掛けたのが申し訳ないほど、遼子は真剣に向き合ってくれていた。
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