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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
◇◇◇◇
「ひぃぃ! 無理! むーりぃぃ!」
杏璃の悲鳴と共に、『エッチなあの娘の取扱説明書』が宙を舞う。それがボスッと春馬の頭に当たり、彼の顔を滑って膝の上に落ちた。
「おい」
額に青筋を走らせて、春馬は杏璃を睨んだ。
「これ、無理なやつ! 本気で無理なやつ!!」
「それより俺に言うことがあるだろ」
「うん! 他の方法考えよう! 私に官能小説なんて無理!」
杏璃が小説を書くにあたり、まずはどんなものか知ることから始めようと、二人して読書を開始した。
だが、想像以上に生々しく、なんだかグロテスクな印象さえ受けて、到底書ける代物とはどうしても思えなかった。
杏璃が早々に投げ出したその本の帯には『ビギナーにも優しいソフト調教モノ』と銘打ってある。
半分ほど読んでみたが――それだって幾度も投げ出しては春馬に叱られて――すでに穂奈美という女は、油ギッシュな中年男以外にも、何人もの男と関係を結び、快感に溺れていた。
どこがビギナーに優しくて、ソフトなのか。
しかも杏璃が相手取るのは玄人の司だ。調教モノを書くとは決まってはないが、これ以上の卑猥な話を書かないとという強迫観念に苛まれても仕方ないだろう。
すると当然、男女の経験がない杏璃には書けないと思うのも仕方がない話だ。
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