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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
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「うわ~~~~っん! もう、信じらんない! 信じらんないよぉ!! 男なんて最低最悪! 地球から滅びてしまえばいいんだーーっ!」
樹月杏璃〈キヅキ アンリ〉はテーブルに突っ伏して、盛大に泣いていた。
純真に信じてきた過去。すべてを捧げようと決めていた未来。どちらも呆気なくも木っ端微塵に打ち砕かれ、どうしようもないくらい嘆いているのだ。
そんな彼女の対面に座るのは、端正な顔立ちではあるものの、眼鏡の奥の闇よりも深い漆黒の双眸に冷淡さを滲ませる、いかにも酷薄そうな男だ。
周囲の人間からしたら、彼が彼女を泣かしていると映るだろう。事実、冷たい視線の数々が彼の肌という肌を突き刺していた。
だが――。
「……要点は掴めないが。なぜ俺がいきなりお前に呼びつけられて、泣かれなきゃならんのだ!」
「だって……だってぇ! すぐ来れるの、春馬〈ハルマ〉くらいしか思いつかなかったんだもん!」
「人を暇人みたいに言うな!」
もうお解りだろう。彼――春馬は、杏璃の失恋に巻き込まれた不運な被害者に他ならないだけである。
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