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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
「だから妄想だ、妄想」
「いや、聞こえたけども。えっ? なんで?」
杏璃の顔が引き攣る。冷たい汗が背中を伝った。
「昔はよく言ってたじゃないか。“いつか白馬に乗った王子様が迎えにくるのー”だとか“私、多分箒に乗って飛べると思う”とか、あとはなんだったか……そうそう、“あの猫ちゃんとお話してきちゃった! また明日も遊ぼうねって約束したんだぁ”」
表情ひとつ変えず、口調だけ杏璃を真似る様といったら……恐怖しかない。
「いぃやぁぁぁ! やめてやめてやめてっ!」
しかし杏璃が恐怖しているのは、過去の愚行をほじくり返される羞恥プレイにだ。それでも春馬の追撃は止まらない。
「嫌がる俺を、しょっちゅうままごとに付き合わせたりもしたよな? お父さん役、弟役、大魔王だかなんだかもやらされた。その時のお前は、嬉々として設定を語ったじゃないか」
「そそそそ……それは! 子供の時の話でしょ! 子供ってみんなそんなもんじゃない!」
「子供? 小学生低学年ならまだしも、高学年の時の話だぞ。ままごとなんて遊び、とっくに卒業してていい年齢だ。それから俺の記憶が確かなら、中学生くらいまでお前は本気で動物と意思疎通出来ると信じていたはずだが?」
「な……なんでそれをっ!?」
動物と意思疎通が出来る女の子が主人公のアニメのテーマソングをこっそりと心の中で歌いながら、出逢った犬猫を撫でていたのは、杏璃だけの秘密。それなのになぜこの男が知っているのか……!?
恐怖を超越した畏怖を感じさせる春馬に、杏璃はガクブルと震えた。
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