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妄想シンドローム
第2章 いざ、始動




 人のいない教室を司は見付け、そこへ杏璃を拉致でもするかのように押し込んだ。


 何のつもりだ。なぜ彼はまだ恋人関係にあるように振る舞ったのだ。昨日、あれだけ杏璃を傷付ける言葉を放っておいて、別れようという言葉はなくとも関係は破綻したというのに。


 春馬みたいな思考と言明が同一の人物は、湧いてくる疑問の数々に返ってくる返答は信用出来るというもの。ただしオブラートには一切包まれてないので、取り扱い注意ではあるが。


 しかし司は長年自らの本当の姿を韜晦〈トウカイ〉してきた人物だ。それは嫌というくらい目の当たりにした。


 言ってやりたいことは、もちろん山ほどある。だが警戒心から杏璃は迂闊に動けないでいると。


「ねぇ、杏璃。僕と取引きしない?」


 極上の――杏璃がずっと見ていたいと思っていた笑顔を浮かべて司が言った。


「とり……引き……?」


 この男は何を言っているのだ。昨日はお互い動揺していたし、連絡をせずに訪問してしまった杏璃にも悪いところはあった。


 だが誰がどう見ても、司の方が断然悪だ。自分を偽り、杏璃を騙し続けてきたのだから。


 元恋人として――いや、人としてまず謝罪するのが当然というものだろうのに、言うに事欠いて取引きだ?


 ますます杏璃の怒りが募る。





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