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妄想シンドローム
第2章 いざ、始動




「あー、やっぱりそうなんだ?」


 机の間を縫い、司は教室内をゆっくりと闊歩し、机のひとつに後ろ手をついて跳び乗る。そのまま膝を組んで身を乗り出し、ニヤリと口許を歪めた。


「いっつもニコニコ笑って、おしとやかーに話してたのって演技でしょ?」


「そ、それのどこが悪いの……? 彼氏に可愛く見られたいのは、普通じゃない」


「うん、そうだね。僕の前でだけなら、そう思ってあげられるんだけどね」


 杏璃は震えそうになる身体を抑えたくて、一方の手でもう一方の腕を掴んだ。


「友達の前でもそうだったよね?」


「……ッ」


「解るよ、杏璃の気持ち。僕もみーんなが期待する僕という人間を演じてきた。杏璃の理由は期待に応える……っていうのとは、ちょっと違う気もするんだけど、敢えては訊かない」


 杏璃は歯が削れてしまいそうなくらい、噛み締める。


「で、僕に何を謝って欲しいのかな?」


 司のクスクスと笑う声が耳に障る。あんなに大好きだった男の声に嫌悪しかないなんて、悲しすぎる。


「さいってぇ……」


 小さく零すのが、杏璃の精一杯の反抗。


 それさえも司は笑いで一蹴した。






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