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妄想シンドローム
第2章 いざ、始動
けれど妄想は現実の杏璃を救ってはくれない。一歩外に出れば、また孤独の世界が待っている。
どうにか孤独に耐えて一日を終え、気鬱な気分を引き摺りつつ集団下校をしている最中。遅い歩みでどんどん同級生や下級生、上級生と離されていき、いっそ一人で帰ったほうが気が楽かなんて思い始めていたら。
「……おい。その辛気臭い顔、目障りなんだが」
一緒に集団下校していた同級生の男の子の一人が道で止まり、杏璃に声を掛けてきた。それが当時の春馬だった。
「春……馬……」
彼とは家がわりと近所にある。しかし特別仲がいいとかではなく、時々道端や近所のスーパー、それにみんなで遊ぶ公園で会うくらい。
彼に酷いことを言われた気がする。だが言われた言葉の意味よりも、同級生とまともに目を合わせるのが久々で、嬉しさのほうが勝ってしまっていた。
性別も、性格もまったく違う二人が仲を深めたきっかけは、奇しくも杏璃の孤立。
大人になってから思い起こすと、顔を顰めたくなるよな――そんな不思議な縁だった。
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