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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
杏璃が指定したカフェ。それは乙女からしたら楽園とも呼べるべきスペース。
陶器の置物はどれも可愛らしく、凝った代物ばかり。テーブルごとに置かれる、丸いガラスの器には、小さな白い花が癒しを添えている。
上部が曲線を描く窓に引かれるレースのカーテンは、そよ風でも吹けば蝶の羽のように軽やかに揺れ、店内に光を舞わせる。
そして極めつけは、ピンク色を基調とした空間。
集う客の大半は女性――現時点で春馬を含め、男性客は二人のみ。
まさに乙女の楽園そのものである。
そんな場所で、カップルに見えるだろう片割れが号泣しようものなら……なるほど、春馬が眉間に深いシワを寄せるのも頷けるわけだ。
「でも実際暇だから来てくれたんでしょ? それに……こういう可愛い場所のが、ちょっとでも傷が癒えるかなって」
杏璃は鼻をスンスンと啜り、あとからあとから零れる涙をハンカチで拭く。
「暇じゃない! けどお前が死にそうな声で電話してくるから仕方なくだ」
「うん、ごめん……」
見るからに痛々しい表情で、けれど無理に笑みを作る杏璃。
泣いたからか、幾分かは心の痛みが取れた気もしないでもないが、春馬に電話をかけたときは本当に死にそうだったのだ。
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