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妄想シンドローム
第2章 いざ、始動



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 大学で司の女避けの恋人役を演じ続ける生活は、わりとすぐに解放された。というのも、長期の夏休みに入ったからだ。


 所属しているサークルの催しや、友人たちとの集まりではまた演じることになるだろうし、夏休みが終われば毎日のように演じさせられるだろう。


 だがともかく、二ヵ月近くは毎日顔を合わせなくて済むという解放感が杏璃を満たしていた。





「この夏休みが勝負だ」


 杏璃の部屋の壁に何かのスケジュール表のような紙を画鋲で張り付けた春馬は、その紙の横を強く叩いた。


「え?」


「え、じゃない! 小説だ、小説!」


「あ、はい」


 そうだった。解放感に浸りきってばかりもいられなかったのだと、杏璃は深く頭を抱える。


 夏休みに入ってまだ三日目。アルバイトや遊びの予定がなく、朝から自宅でダラダラと過ごしていると、春馬から連絡があった。


 二週間弱とはいえ、司の隣で笑っていなければならないというストレスと憤りで脳はすっかり硬化していたところに夏休み突入だ。


 この暑さも加わって硬化しきっていた脳がドロドロに溶け、ついでに小説のことも意識から溶けていて。


 春馬からの連絡も、ああ、彼も暇で遊び相手を探しているのか、くらいに捉えていた杏璃は、小説のワードで囚われの身に引き戻された気分になった。






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