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妄想シンドローム
第2章 いざ、始動
――こほん。
杏璃が咳払いで空気を一掃すると、春馬は一度瞑目して次に開いた時には何事もなかったかのように話を続けた。
「お前がこれから目指すのは残りの手段――公募だ」
「はい、教官!」
ビシッと音がしそうな勢いで、杏璃は敬礼する。
「各文学賞は毎月応募されているが、官能ジャンルでは一年に二度。最も近いのは十月だ。それに合わせて執筆してもらう」
「十月って……あと三ヶ月で!?」
一般的に三ヶ月もあれば長編を一冊書くのに充分な期間だ。しかし杏璃はそのような知識はないし、ド素人がたった三ヶ月で書けるのかと不安に駆られる。
「原稿用紙で三百枚。一ヶ月で百枚。一日なら三から四枚程度書けば間に合う」
気楽に言ってくれるものだ。実際に書くのは杏璃なのに。
「で、構想はある程度固まっているんだよな?」
「え……えぇっとぉ~」
「まだ何も考えてないのか!? お前……俺が調べてる間、何やってた!?」
「買った本は読んだよ! 一応! ただほら……あいつへのイライラで妄想どころじゃなかったっていうか~……ごめんなさい」
のらりくらりと弁明を連ねて躱そうとしたが、司の眼鏡さえ熔かす眼力に身を竦ませて震える声で謝る。
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