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妄想シンドローム
第2章 いざ、始動




「官能小説……いや、小説に倫理観を求めすぎると、限界の幅を狭めるぞ」


 杏璃の吐露を聞いた春馬は咎めるように話す。


「それでも嫌なものは嫌」


「まぁ解らなくもないけどな。女を無理に犯すってのは、どうも好きになれん」


 どうやら春馬にそういった嗜好はないらしい。同調してくれて、杏璃は内心ホッとする。


「良かったぁ。春馬って見た目も内面もサドじゃない? 付き合ってきた彼女を縛ったりしてそうだから。あ、束縛じゃなくて緊縛のほうね。でもその口調じゃしてな……いだだだだ!」


 唐突に頭上を伸びてきた春馬の手に渾身の力で握られ、杏璃は悶える。


「お前は。俺を。どういう目で見てるんだ」


 眼鏡を陽の光で反射させる春馬は、またとなく憤然のご様子。


「いだっ……ちが、あの……いだだ……単なる印象……あだぁ!!」


「余計悪いわ!」


 最後は頭がかち割れんばかりの力で潰した春馬は「ったく、協力してやってるのに」と呟いて、杏璃の頭から手を放した。


 杏璃は痛みの余韻を両手で擦り、どうにか散らす。


 涙目でじとと春馬をねめつけると逆に睨み返され、慌てて視線を逸らしてニコッと笑って肩を竦めた杏璃だった。






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