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妄想シンドローム
第3章 類はなんとやら




「あ……杏璃ちゃん?」


 聞き覚えのある声に呼ばれて、杏璃は我が耳を疑う。


 なぜ変装している自分が解ったのか、というよりもその声の主にだ。


「ゆ、由奈ちゃん!?」


 どうして彼女がここにいるのだ。彼女の家は、確か電車で数駅も離れていたはず。いやそれよりも、杏璃がいるコーナーは18禁の……。


 互いに一呼吸置いて、それから――。


「えぇぇぇーーっ!?」


 綺麗にハモった驚愕の声が店内に響き渡った。









「あ、何か飲みますか?」


「い、いいえ……。お構いなく」


「…………」


「…………」


 大学近くのファーストフード店。ここは杏璃が由奈と何度も訪れたことのある馴染みのある場所だ。そこで二人は変装を解いて、向かい合って座っている。


 馴染み深い店のはずなのに、まるで初顔合わせのお見合い相手と面するような、空々しくも気まずい空気を漂わせる。


 杏璃は死神によって首に鎌をかけられている気分だ。死神は千番台からたっぷりと時間をかけて、のんびりとカウントダウンをしている。いっそのこと光速でゼロまで数えて欲しい。


 由奈から何か質問をされるのを待つのは、そのくらい心臓に悪い。それは彼女も同様なのかもしれない。


 解るからこそ、どちらも動きかねていた。






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