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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉



 そんなこんなで互いの自宅の場所は知ってはいるものの、実際に来たのは初めてで。


 しかもこの春から司は、家族の住む部屋の隣に一人暮らしときている。


 来るな、と直球で言われたことはなくとも、「二人きりになって、杏璃の嫌がることしちゃうといけないから」とやんわり断られた過去が過り、抱えた荷物がずしりと重みを増した気がした。


 せめて事前に連絡すべきだったか――不安と緊張に未だ尻込みするが。


(ううん、でも! 司は病人なんだし、看病するだけなんだから、やましい気持ちはないんだから……いいわよね)


 モノトーンの外観の建物を見上げ、自らに言い聞かせて、司の部屋の前まで歩んだ。


 インターフォンに添える指を二度、三度と躊躇し、えいっと押す。


 ピンポーンと鳴ったそれに、腹を括った。


 ドキドキしつつ待つこと数分。自分でもどれだけ待つんだと言いたくなる、長い時。


 扉にピタリと耳をくっつける。しかし物音すらしない。


 再度インターフォンを鳴らしてみるが、やはり返答がない。


 病院にでも行っているのだろうか。それとも隣の実家で休んでいるのだろうか。


 それならばいいのだが、最悪の光景――司が一人で部屋で倒れているイメージが浮かび、杏璃は咄嗟にドアノブを捻った。





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