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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔
まぁ来てしまってもう引き返せないのだし、あまり考えずに楽しもうか。
そんな気持ちでコテージの近くにあるちょっとした調理場で野菜を刻んでいると。
「杏璃ちゃん、大丈夫?」
同じサークルに所属して、今日も参加している由奈が杏璃の隣に立ち耳打ちしてきた。
「野菜? これじゃあ太すぎるかな?」
手元にある切ったニンジンを一枚指で摘まみ掲げる。
「じゃなくてね。ほら、アレ」
周囲の目を気にしつつ、由奈が後方へ目を向ける。
続いて杏璃もそちらへと視線を巡らせると、司が友人や先輩たちと一緒になってバーベキューの火を熾していた。
「ああ、うん……まぁ?」
杏璃たちがコソコソと話す傍らで調理をしている女性陣。彼女たちは彼女たちで会話を弾ませており、杏璃たちに意識を配っていないようだ。
だが念には念をと、杏璃と由奈は「切った野菜を向こうに持っていきますね」と一言告げ、銀色のボウルに詰まる野菜を抱えて移動する。
「ぶっちゃけキツイっす」
落とした声で由奈に愚痴る。
キャンプ場へ着くまでの電車移動では常に隣に座らなければならなかったし、仲睦まじいフリだってしなければならなかった。
これは結構精神的に“クル”ものがあった。
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