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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問






「んでさぁ、そのまま結婚の挨拶もするから
それなりの服も一応持ってって」


「!?」


…あのさ、蒼汰さんよ。


そういうのは1か月くらい前から一言くれませんかねっ?


そ、それなら。


「…蒼汰どいて。あたしもう上がる」


「は?何で」


「何でってっ…準備しなきゃいけないでしょ!
パックして3日分の服つめてご飯だってっ…
服もっ…あーあれでいいのかなぁ!?
もぉ急過ぎなんだよ蒼汰のバカー!」


「えっ!?なんっ…え、ごめ…」


この人いつもそうだ!


あたしに伝えてくれるのが直前すぎて!


蒼汰からシャワーヘッドをひったくりシャワーを浴びて、


「杏奈〜ごめん〜怒るな〜」


「杏奈〜目に泡入る〜早く〜」


と言ってる蒼汰を無視して上がった。


いや、怒ってない。


蒼汰のそれはいつものことだから今更怒らないけど!


み、未来のお義父さまとお義母さまに挨拶だよ!?


そんなの!


「…っ」


そんな、の。


「…」


…どうすれば、いいの…?


脱衣所でしばらく立ち尽くし、ハッとしてパジャマに着替えてバスタオルを頭に被せる。


どうしよう…、分かんない。


どう、接したらいいの?


あたしもう、親の記憶はほとんどない。


どう接するのが正解なのか間違ってるのか…


友達の親とかと話したことはあるけど、こんな、反応によっては最悪な状態にもなっちゃうのなんて今まで…


「杏奈」


「っ」


いつの間にかお風呂から上がっていたらしい蒼汰から声をかけられ、大きく身体を震わせてしまった。


「…言っとくけど。
お前は何もしなくても十分ちゃんとしてるから。
それに、俺の親だからって気ぃ張らなくてもいいよ。
あの親なら寧ろ…、気ぃ張る方が疲れるわ、確実に」


「…?」


「いつも通りでいいよ、マジで。
杏奈のある程度の話、電話でしてあるしな」


「…、うん…えっ?」


「母親も父親もすっげー楽しみにしてんの、
杏奈に会うの。実の息子より」


「…!?なっ…」


「大丈夫だから」


珍しく優しく微笑む蒼汰。


その笑顔に、少しだけ不安がなくなった。


けど…


…いや、いつもだし、今更だけど。


せめて下着は穿いて出てこようよ、蒼汰…


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