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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
蒼汰SIDE
「杏奈。…杏奈、おーい」
柔らかな頬をぺしぺしと叩く。
いつもは起こさなくても起きるのに、珍しく起きない杏奈。
「おーい起きましょー…もうすぐ着くよ?」
耳元で囁くけど、「んー」とか言いながらも起きない。
…うーん。
「杏奈ー」
「…」
「杏奈ちゃーん」
「…」
ほんと起きねぇな。
寝顔の写メでも撮ってやろうか。
…あ。
そうだ、いいこと思い付いた。
…ヤっちゃいますか。
敢えて、起こさないようにカバンからあるものを取り出し、1つ手に取る。
杏奈の唇を摘んで引っ張り、それを持った指を口内に突っ込むと。
「…、…っ!?何やってっ…!」
瞬時に目を覚ました杏奈が唇を拭う。
そして。
「…辛っ!」
盛大に顔を歪めた。
「〜〜〜っ」
口元を押さえて涙目になる杏奈を腹を抱えて笑う。
先日、杏奈に同じ方法で叩き起された。
ミンティア口内突っ込み法。
「この前の仕返しだ、仕返し」
「なっ…ひどー!今しなくてもいいじゃん!
わーん、辛いよぉぉ」
バシッ
「いって」
俺の背中を叩いて飲み物を探してる杏奈。
俺の席のボトルホルダーにあるお茶のペットボトルを見つけると、すぐに蓋を開けて半分以上飲んだ。
「…ちょっと杏奈ちゃんそれ俺のなんですけどー」
華麗にスルーされ、結局全部飲まれてしまった。
「バーカ。バカバカバーカ」
「ごめんごめん」
「トイレ行きたい」
「行ってらっしゃい」
そりゃ全部飲んだら行きたくなるわ。
わざと俺の足を踏んで席を立ち歩いていった杏奈を笑いながら見つめる。
あー面白い。
可愛い。
相変わらず緑ばっかだなーと思いながら窓の外を見つめてると、また俺の足を踏んで杏奈が戻ってきた。
「おかーえり」
「…ただいま」
「もうすぐ着きますよ」
「うん」
席に座り、窓の外を見た杏奈が俺を振り返る。
「緑多いね」
俺と同じこと思ってる。
「東京よりは田舎ですからね」
「東京は建物ばっかだよ」
「こっちは緑だらけ」
「蒼汰の故郷だー。初めて〜」
にこにこ笑う杏奈が可愛い。