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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
杏奈の横顔を見つめてると、その表情がゆっくりと柔らかくなっていった。
「…?」
「…へへ」
へらりと笑って、俺を見上げた杏奈。
「ここの駅、よく使ってたの?」
「うん。電車通学だったから」
「そうなんだ。じゃあ美咲さんも?」
「あいつはほとんど親の車だったな。
美咲が大樹と付き合う前は俺もよく乗っけて貰った」
「じゃあ家近いってこと!?」
「うん。幼なじみだし」
「あぁん、いいなぁ〜!あたしも混ざりたかったぁ」
杏奈が俺と繋いでる手をぶんぶん振る。
きょろきょろとせわしなく周りを見渡してる杏奈。
その口元は嬉しそうに綻んでる。
…可愛いなぁ。
俺も思わず口元が綻ぶ。
駅を出てバスターミナルを歩き、親の車を探す。
…あぁあれだ。
「蒼汰の、故郷だ。蒼汰の生まれ育った街だぁ」
…だからほんと、可愛すぎ。
やべー…抱き締めたい。
自分でも表情筋が緩みきってるのが分かる。
待ってろよ杏奈、この3日間でいろんなところ連れてってやるから。
俺は杏奈を連れて、車に乗り込んだ。
「…」
「もう何て可愛いの〜!蒼汰ったらこんないい子と
付き合ってたなんて早く言いなさいよぉ!
東京まで会いに行ったのに!」
「…黙れクソババア」
「蒼汰ったらね〜?そういう話全然してくれんの〜!
あ。ねぇ杏奈ちゃん。連絡先交換しましょ?
これから毎日電話するわー!」
「…おいクソババア何言ってんだ!
杏奈、絶対交換すんなよ…ってだから!すんなって!」
きゃっきゃ言いながら連絡先交換してる2人。
…いや、仲良くなってくれて嬉しいけど。
何で母親と杏奈が2人でくっついて座ってて俺がこっちで1人な訳?
杏奈返せっつの。
「杏奈ちゃん。お母さんって、呼んでいいからね?」
…だから!
気が早いわ!
俺には向けたことないだろう物凄い優しい表情で杏奈を見つめた母親。
…あ。
「ありがとう…ございます」
杏奈…
微笑んだ杏奈の目から、涙が零れ落ちた。
「杏奈ちゃん…」
杏奈の事情を知ってる母親は、そんな杏奈を優しく抱き締めた。
「おかあ…、さん…」
…あぁ。
杏奈の心の傷が少しでも和らぎますように。