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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
「…蒼汰」
その声が、やけに頭に響いた。
ふっと目を覚ますと、杏奈はアルバムを見ていて。
ふあ、と欠伸をして頭を掻き、後ろから抱き締めた。
「…ひゃ!?…あ、起きた?」
「…うん」
「ついさっきお母さん、カステラ持ってきてくれたよ」
「…あ、そーなの?」
机を見ると、ご当地のカステラが2切れ置いてある。
めっちゃ分厚っ。
しかもすげー高いやつじゃんこれ。
いつもケチってんのにこんな時だけクソババア太っ腹だな…
「…そういや杏奈のおにぎりって全部食べたっけ」
「新幹線乗ったらすぐ食べてたじゃん」
「そっか」
あれうまかったわー。
また作ってほしい。
「つーかさっき、俺のこと呼んだ?」
「ん?うん。カステラ一緒に食べようと思って。
…そういえば1回呼んだだけなのに起きるの珍しいね」
やっぱり呼ばれてたのか。
何であんな鮮明に聞こえたんだろう。
「いつも呼んだだけじゃ絶対起きないのに」
ケラケラ笑う杏奈に俺も笑う。
「怨念でも込めたんだろ」
「ははっ、バレた?」
「バーカ」
悪戯っぽく笑う杏奈の髪をくしゃくしゃにしてやる。
「ぎゃー!絡まる〜」
とか言って俺の手を押し退け、くしゃくしゃの髪のまま再びアルバムを見る杏奈。
…俺にも構えよー。
「杏奈〜」
「ん〜?」
「杏奈ちゃーん」
「…」
…構えよー。
クソ…アルバムに負けるとは。
くだらなすぎる嫉妬をしていると。
「蒼汰ー。はい、あーん」
「…!?」
カステラを持ち、俺を振り返って口元に持ってきた杏奈。
…え、何これ嬉しい。
もちろんそれに俺は、
「ん」
思いきりかぶりついた。
そして。
「…っ!」
そのまま杏奈の唇に噛み付く。
大きめのカステラが口内で行き来する。
…甘い。
すげー甘い…
カステラの匂いと、杏奈の柑橘系の匂い。
杏奈から洩れる可愛い声。
クラクラして仕方がねぇ。
口内にカステラがなくなって、杏奈の身体を床に押し倒してキスを続けた。
唇を離すと、トロンとして涙目になってる。
伸びた唾液を舌で絡め、再び唇を塞いだ。