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want to be ...【短編集】
第8章 矢野家訪問
゚・*:.。.*.:*・゚.:*・゚*
「あんた、お父さんにそっくりやわ」
「…あ?何が」
つか何、突然。
目が醒めて、まだ眠ってる杏奈に頬を緩めて飲み物を取りにキッチンへ行くと。
開口一番に言われた意味の分からない言葉。
「声。あんたらいつもああなん」
「…」
あぁ…
「…え。ごめん、そんな聞こえた?」
「かなり。あんま虐めちゃダメよー、
女の子には優しくしないと」
「うるせー。あいつ激しくすっと可愛いんだもん」
「まー、ほんっとお父さんそっくり」
「…何それどういうこと」
「そういうこと」
…あ?
意味分かんねぇ…
…って、
あぁ…はいはい。
「…父さんね。はいはい…あー、はいはい」
「何や適当な」
今更思うけど俺の両親…ほんといつまで経ってもラブラブだよな。
美咲んとこもラブラブだし、茜んとこも仲いいしな。
俺の周りには夫婦円満な家が多いのか?
「…夫婦円満の秘訣。何かあんの」
「まーっ蒼汰ったら!
そんなこと聞く年齢になったのね!」
「〜っうるせぇクソババア!」
「まー生意気。
その生意気さは何年経っても変わらないわね」
「…さっさと教えろ」
仕方ねぇだろ。
今更呼べない…母さん、って。
母親の事は「ババア」だし、父親の事は「ジジイ」。
昔はちゃんと呼べてた。
小学の頃は、まあ世間一般の呼び方と同じ「お母さん」と「お父さん」で。
中学に入って「母さん」と「父さん」になり。
高校に入る前、ついに「ババア」と「ジジイ」になった。
きっかけは…何だったんだろうな。
今思い返せばいろいろある気がする。
恋に(主に美咲に)目覚めたり。
反抗期だったり。
2人の情事を見てしまったり。
両親のこと…もちろん大事だけど、素直に感情を表現出来なくてひねくれた。
…だけど。
だけど。
杏奈には、いない。
こうやって無条件で愛してくれる、自分を産んだ両親は…もういない。
杏奈のご両親の話を聞いて、俺も想像してみた。
自分の両親の訃報を聞いた時のこと。
…考えられなかった。
バカみたいに大声で喋って笑って話の通じない母親が。